痛みのミカタ概要(1) 目次

【痛みの認知】 痛みの多面性を理解することが今回のテーマ

テーマ

痛み治療戦略のパラダイムシフト

痛みの原因はどこにあるのか?

痛みの定義(国際疼痛学会)

・痛みは不快な感覚かつ情動体験である
・痛みは主観的で個人的なものである

■痛みの概念の変化

・痛みとは侵害入力である
・痛みはモジュレーションされる
・痛みは脳内での出力である

■痛みの3つの側面

・感覚(pain)
・情動 (emotion)
・認知 (cognitive)
・「すぐ良くなる人」と「なかなか治らない人」の違い

■痛み治療に求められること

・Biological psychology Social model(BPS)
・Yellow Flag
・慢性痛を治療するための大切なポイント

み治療戦略のパラダイムシフト

痛みのミカタ講座第1回目のテーマは「痛みの認知」です。認知とは何かと言いますと、『痛みをどのように捉えているか?』ということです。簡単に言うと、どんな【痛みメガネ】をかけて痛みを見ているのかということです。

痛みメガネ

痛みの多面性を理解するために「痛みの定義」や「痛みの概念の変化」を説明していきますが、その前に、まずは患者さんが訴える痛みを評価する際の【治療戦略】を見直す必要があるかもしれません。

そこで2013年にApkarianらによって発表された「痛み治療のパラダイムシフト」と称される研究をご紹介致します。

Apkarian
Apkarian教授

患者が訴えている痛みの原因はどこか?

亜急性期(発症から2か月以内)の腰痛患者を集め、年4回f-MRIにて脳内活動をスキャンした上で、初回検査から1年後に『痛みが回復した群』と『痛みが慢性化した群』に分けて、【痛みの強さ】と【痛みを感じた時の脳内活動部位】を分析した研究です。

左上の線グラフは【痛みの強さ(VAS)】を示しています。初回検査時は「回復群」「慢性化群」ともに同程度の強さですが、「回復群」は2か月を過ぎると痛みの強さの程度が低下していきます。一方、「慢性化群」は1年を通して痛みの強さが下がりませんでした。

研究1
「痛みの強さの変化」

右上の図は痛みを感じた時の「脳内の活動パターン」をあらわしたf-MRI画像になります。第1回目(Visit1)では「回復群」「慢性化群」ともに同じ脳領域が活性化している事がわかります。その領域とは【視床】【体性感覚野】【島皮質】【帯状皮質】が活性化しています。これらの領域は『痛覚』としての痛みを感じる領域とされています(Pain領域)

研究2
「両グループの1回目と4回目の脳内活動」

しかし初回検査から1年後(Visit4)では両グループは大きく異なります。

「回復群」では、痛みの減少とともに脳内の活動も落ち着き、ほとんど活性していない状態ですが、「慢性化群」の脳内では依然として活動している領域があります。この活動している領域はVisit1の時とは異なり、【扁桃体】【内側前頭前野】などが活性化しています。これらの領域は『情動』としての痛み(emotion領域)として知られています。このように「慢性化群」では初回検査時と1年後では活性化している領域が全く異なっていることがわかります

右下のグラフは「回復群」の脳内活動の活性度を線グラフにしたものです。

研究3
「回復群の脳内活動の活性度」

Pain(痛覚)領域は2か月を過ぎてから活性が低下しているのがわかります。Emotion(情動)領域は初回時以降大きな活性化は見られなかった。

一方、左下のグラフは「慢性化群」の脳活動の活性度を線グラフにしたものです。

研究4
「慢性化群の脳内活動の活性度」

回復群と同様にPain(痛覚)領域は時間の経過とともに活性が低下していきますが、回復群と異なるのは、Emotion(情動)領域が7、8週以降から徐々に活性化していき、半年を過ぎると、Pain領域と逆転し、1年後には大きく活性化しています。

「慢性化群」ではVisit1とVisit4で訴えた痛みの強さが同程度でも、患者の脳内では【Pain】→【Emotion】と異なった痛み関連領域が活性化しているという事です。つまり、痛みを訴えている患者のどこの脳領域が活性化しているのかを評価することが臨床では重要です。(痛みの評価に関しては第2回目でお伝えします)

画像の説明

脳領域

みの定義(国際疼痛学会)

痛みの定義
国際疼痛学会による「痛みの定義」が2020年7月に改訂されました(詳細内容はこちら

「痛みの定義」(国際疼痛学会)では、「痛み」とは、他人が見ても目に見える組織損傷による痛みだけでなく、<潜在的な組織損傷>=まだ損傷を受けていない状態、例えば注射の針が皮膚に触れるだけでも痛いという人もいます。また<言葉として表現される>=実際に第三者が見ても損傷がなくても、痛みを訴える人が言葉や表情で痛いと表現すれば、それは「痛み」ですよ、ということになります。

また痛みとは【感覚的な痛み】だけでなく、【不快な情動体験】であるというように定義されています。

痛みの定義

痛みの治療がわかる本「伊藤和憲」

例えば、主婦が外で洗濯物をしている時に野球のボールが飛んできて、主婦のおでこにぶつかったとします。一瞬「ガーン!!」と強い痛みが出た後に「ズキズキ」と痛み始めました。組織が損傷して、頭にはたんこぶが出来き炎症が起きています。

この痛みはいわゆる感覚的な「痛覚」としての痛みですが、通常このような損傷による痛みは組織の回復とともに痛みも軽減していきます。

しかし、損傷が改善してからも依然と痛みを訴える患者もおられます。その場合、見た目からは痛みの原因を見つけることができませんが、患者は「痛い!!」と訴えます。

このような痛みは痛覚としての痛み以外にも、なかなか症状が良くならない「不安」や痛みの原因が不明による「恐怖」、加害者や医者に対する「怒り」などの不快情動として痛み(苦痛)を訴えている場合もあるのです。これもまた痛みの1つの側面なのです。

不安

また「痛みの定義」の注釈部分には『痛みは主観的であり個人的なものである』とあります。逆を言えば、痛みは【客観的】なものではないと考えられます。
『客観的』=『自然科学的』な手法で痛みを知ることはできないのです。

痛み学講座では神経生理学的な視点で痛みをみていくので矛盾するようですが、臨床では客観的には痛みは見れないのです。先生方も実感されておられると思いますが、痛みの実態と患者さんの訴えが異なることはよくあることです。上記で説明したように、さして大きな損傷がないにも関わらず痛みを強く訴えたり、炎症徴候がないにも関わらず強い痛みしびれを訴える患者さんもおられます。

このように痛みには【感覚的】(pain)な側面だけでなく【感情的】な側面(emotion)、【認知的】な側面(cognitive)が重なり合い、古くは古代ギリシャから痛みは「感情なのか」「感覚なのか」「心で感じるものなのか」「脳で感じるものなのか」議論されてきたわけです。

アリストテレス

臨床では痛みの強さを数量化する際に「NRS」「VAS」「フェイスペインスケール」を用いることが多いかと思いますが、その際の注意点としましては、患者さんが痛みを感じて痛みの強さを数量化する際に、実際の痛覚としての痛みを表現しているのか、情動的な要素も加味して表現しているのかを考える必要があります。つまり、その時の気分などの情動的背景によって痛みの強さが表現されている可能性もあるのです。これは急性痛より慢性痛患者さんに多くみられます。その際は痛みの強さによる評価だけでなく、可動域や筋肉の硬さなど他の評価も必要でしょう。

NRS
日本緩和医療学会

評価

みの概念図の変化

17世紀以降(痛みは入力である)

デカルト

17世紀デカルトが考えた痛みの概念は、たき火をしていて火の粉が足に飛んできた時にその痛み刺激を伝えるための「ロープ」が身体の中に通っていて、それが脳まで繋がっていて、痛み刺激が加わるとそのロープが引っ張られることで脳が痛みを感じる。例えるならば、教会の鐘のロープを引っ張ると「カラン♪カラン♪」と鳴るのと同じ原理を考えたわけです。

images (4)

「痛い所が痛みの現場で、その痛み入力がそのまま脳に伝わる」

この概念は今でいう『侵害受容性疼痛』と呼ばれるものに近いものです。
デカルトの痛みの概念との違いは何かというと現在では、痛みを伝えるロープはAδ(デルタ)繊維c繊維という2種類の痛みを伝える神経であること。神経は脳まで1本の神経で繋がっているのではなく、脊髄後角にて、一次ニューロンと二次ニューロンがシナプスしてバトンリレーされることが分かりました。

1965年以降(痛みは途中で調節される)

メルザック&ウォール

そうした中で1965年メルザックとウォールによって新しいミカタが作られました。

ゲートコントロール理論」です。

簡単に説明すると、バトンリレーされる部分(後角)で痛みが調整(モジュレーション)されるという考えです。これは日常的にも「擦る」、「痛いの痛いの飛んでいけ~」と痛みを抑制させています。

このメカニズムはSG細胞(門を閉じる細胞)を活性化させることで痛み入力を抑制させることです。Aβ繊維(触覚)、Aα線維(振動)を刺激することで、SG細胞を活性化させ、痛み信号をT細胞(情報を中枢に伝える細胞)に伝えないようにしているという仮説です。

SG細胞はまだ見つかっていないので、現在は「抑制介在ニューロン」に修正されています。

この痛みの概念の特徴は痛み入力がそのまま脳へ入力されるのではなく、

痛みが調整・モジュレーションされるということです

さらに中枢からの抑制も受けています(中枢制御)この仕組みは第3回目でお伝えします。

1990年以降(痛みは出力である)

メルザック
「neuromatrix theory-Ronald Melzack

1990年~2000年にかけて「ニューロマトリックスNeuromatrix」という新しい痛みの概念が作られました。マトリックス=「生み出す」という意味で、ニューロマトリックスとは「脳内で痛みに関連する情報を統合して処理する神経ネットワークが存在する」という仮説です。

ニューロマトリックス

図の左側が【入力input】で、真ん中のBody-self-Neuromatrixが【脳内】、右側は【出力output】です。

左側の3つの側面からの入力

cognitive(認知)
sensory(感覚)
emotion(感情)

から脳内のニューロマトリックスに入力され、脳内でそれらの情報を統合して処理を行った結果として、【痛みpain】【行動action】【ストレス調整stress-regulation】として出力されます。

みは入力だけでなく脳内で統合されて出力される

ニューロマトリックス

痛覚刺激はそのまま脳内で認知されるわけではありません。同じ痛みの強さでも、その時の状況により痛みの感じ方は変わります。よくあることですが、痛み以外のなにかに集中していると痛みを感じにくくなり、痛みに意識を向けるほど痛みを感じます。

つまり、痛みは「気分」や「痛みの知識・情報」「記憶」「思考」などContext(状況・背景)により装飾される「主観的であり、個人的な脳内での体験である」と言えるのです。

3つの側面

「Oid view of pain」から「New view of pain」へ

new view of pain

Ben Cormack

過去の痛みのミカタ(old view of pain)は一方的な侵害刺激の入力のみでしたが、新しい痛みのミカタ(new view of pain)では一方的な入力だけでなく、脊髄後角において痛みの調整(モジュレーション)があったり、感覚・情動・認知の3つの側面からの入力をもとに脳内で多面的に痛みを作り出しているわけです。つまり痛みは単なる侵害刺激の入力だけでなく脳内からの出力であると言えます。

みの3つの側面

痛みの3つの側面

痛みには3つの側面があります。どこがどれだけ痛いかという「感覚的側面」と痛みがどれだけ不快という「情動的側面」とその痛みをどう認知、どう捉えているかという「認知的側面」があります。

感覚的な痛み(Pain)

感覚

感覚的な側面とは「どこがどれだけ痛いか」という側面です。臨床ではぎっくり腰などの炎症性の痛みや動作による痛みなど、患者さんが訴える場所が痛みの現場でもあります。

いわゆる「侵害受容性疼痛」と呼ばれる痛みです。痛みの神経生理学でもお伝えしますが、痛覚神経にはAδ、C線維と2種類の神経線維があり、その末端には侵害刺激を電気に変える場所である「侵害受容器」があります。そして侵害受容器も神経線維によって2種類あり、それぞれ「特異的侵害受容器(高閾値侵害受容器)」「ポリモーダル受容器」と呼ばれます。

主に感覚的な痛み(pain)は一瞬の早い痛みで、特異的侵害受容器から電気が発生し、Aδ神経線維を伝導し、脊髄後角で交差し、脊髄視床路(外側)を上行し、視床を通り、体性感覚野にて痛みを認知します。いわゆる【損傷モデル】と言われます。

体性感覚野
「右側が体性感覚野」

急性痛

情動的な痛み(Emotion)

情動
外側脊髄視床路内側脊髄視床路

情動的な痛みとは「どれだけ不快な痛み」という側面であり、主にC線維から侵害刺激が入力され、脊髄視床路内側系と呼ばれるもので、図では、緑の部分、PAG(中脳水道灰白質)、扁桃体、海馬、前頭前野、帯状皮質、島など部位が連携して活性化します。

視床が内側・外側で情動、感覚と別れていたように、島は後部が感覚的な痛み、前部が情動的な痛み、前頭前野も内側、外側があり、互いに抑制し合っているので、明確に感覚系と情動系でわかれているとは言えません。

痛み刺激を身体に受けることで、赤の部分(感覚的な痛み)、緑の部分(情動的な痛み)が活性化しますので、これらを【ペインマトリックス】【痛み関連領域】と呼びます。

しかし最近では、直接的に痛み刺激を与えなくても、これらの痛み関連領域が活性化することが分かってきました

例えば、痛そうな画像や言葉表情や記憶や痛くなりそうだという予期がこれら【痛み関連領域】を活性化します。

痛み
「痛そうな写真を見るだけで痛みや不快感を感じる」

つまり、実際に身体に痛み刺激を加えなくても、痛そうな画像を見るだけで、痛み関連領域が活性化していれば、痛みを感じている可能性があるわけです

実際にこんな研究報告があります

研究

日本の研究で、成人22名を腰痛経験者グループとまったく腰痛を感じたことがないグループに分けて、床に置いてある荷物を中腰で持ち上げる【写真】を見せた際、視覚情報により刺激された脳神経活動をf-MRIで分析したところ、腰痛経験者グループでは、写真を見ることで、全員が不快感を覚え、実際に痛みを訴えた者もいた。一方、腰痛非経験者は不快感、痛みを訴えた者はいなかった。

f-MRIでは、腰痛経験者は非腰痛経験者に比べて、痛み関連領域である視床、島、帯状皮質などが活性化されていた。実際侵害刺激を腰に加えて腰痛を感じている時の脳活動と同じように、中腰姿勢で荷物を持つという視覚的な情報だけで痛みや不快な情動を体験していることがうかがえる

これは、患者さんが腰が痛いと訴えていても、実際は腰からの侵害刺激が脳に伝わっているわけではない可能性があるということです。

work

認知的な痛み(cognitive)

認知

3つ目の認知的な痛みは、過去の経験や記憶、テレビやインターネットによる情報、病院の先生の発言などによって、患者さんご自身が自分の痛みを『どんな痛み』であるかを認識します。

痛みとは「主観的であり、個人的な体験である」とのことから、同じ痛み刺激が加わったからと言っても常に同じ強さに感じるとは限りません。

痛み刺激がそのまま脳内に入力されるわけでなく、過去の体験や痛みにおける考え方(信念)や生活環境などの背景、不安などの気分障害、脳内の活動パターンによる神経伝達物質の分泌、脳内部位の萎縮、継続的な痛み刺激の入力による末梢性、中枢性感作など、様々な装飾を受けて、個人それぞれに痛みを体験するわけです。

心理社会的モデル

Biological psychology Social model -Ben Cormack

なかなか改善しない人には共通する考え方、認知の仕方があります。
「痛みという体験」を否定的に捉えてしまう思考を「痛みの破局化」と言います。

破局化

痛みの破局化には3つの側面があります。

1 痛みのことを何度も繰り返し考えてします(反芻)
(たとえば、朝起きた時、毎朝痛みが消えているかどうか確認してしまう)

2 痛みの危険度を増幅してしまう(拡大視)
(なにか重大な病気が潜んでいるのではないか?)

3 痛みに対して、何もできないという無力感(自己効力感の低下)
(自分ではどうにもできないので、わらをも掴む思いです、先生私の痛みをどうにかしてください)

このような思考は痛みの回復に大きな影響を与えます。

「すぐ良くなる人」と「なかなか治らない人」の違い

痛みメガネ

私は問診時に必ず確認する質問があります。「あなたの痛みの原因は何だとお考えですか?」です。

患者さんの答えは様々で、病院で骨が変形しているからと言われた、神経が触れているから、脊柱管狭窄症だから、運動不足だから、歳だから、背骨がずれているからなど。

この答えが患者さんがかけている(かけさせられている)痛みメガネです。この痛みメガネのせいで本来であれば時間とともに改善するはずの痛みが改善しなくなることもあるのです。

「なかなか治らない人」と「すぐに治る人」何が両者を分けたかを説明する1つのモデルが1983年に提唱された「痛みへの恐怖・回避モデル」というものです。
これは痛みが慢性化するプロセスを説明したものです。

恐怖回避モデル

まず、痛みを経験したときに「治る人」と「治らない人」の分かれ道は「痛みをどのように思考・認知しているか」によって変わります。つまり「どんな痛みメガネをかけているのか」です。

では、なかなか治らない人はどんな思考・認知をしているでしょうか?「痛みが常に気になってしまう」「痛みがだんだん悪くなってきている」「自分ではもう何もできない」そのような思考を「痛みの破局化思考」と言いました。そして思考・認知が違うと行動が変わります。

痛みの破局化思考を持った人は痛みに対して「恐怖」「不安」を持ちます。すると痛みが出ないように身体を動かさなくなります。それにより筋肉がこわばり、筋力も低下するでしょう。気分も億劫になり、うつ傾向になります。そして痛みがさらに強くなります。

ウツ

一方、すぐよくなる人の思考・認知はどうでしょう?「そもそも痛みを気にしない」「じきに勝手に治る」「自分でセルフケアしてみる」そんな方は治療院には来られないかもしれませんが、そういう方は治療を受けなくても時間の経過とともに回復していくのです。

そして行動が変われば、結果が変わるのです。一方は慢性化し、一方は回復する。

その大元の違いが「考え方」なのです。もうおわかりでしょうか?30年以上腰痛患者数が減らない理由。腰痛を治療して痛みだけをとってもダメな理由。

いくら痛みを取ったとしても、痛みメガネをかけたままであれば、また痛くなれば同じように不安になり痛みから解放されないでしょう。だからこそ【痛みの理解】が必要なのです。

ではこの認知・思考はどのように形成されたのでしょうか?

それは「痛みの考え方」が間違っていたのです。

座骨神経痛

病院では変形が痛みの原因だったり、ヘルニアが原因だったり、すべり症が原因だったりするのです。

「手術が必要」などと言われるかもしれません。そのようなレントゲンをみせられて「不安」に思わない人はいないでしょう。骨がすべっていると言われたら「自分では何もできない」と思われるのも当然でしょう。痛みの破局化思考も起きるでしょう。

なかなか治らない人は【間違った痛みの認知】を持っているのです。
結果を変えたければ、認知・思考を変えなくてはいけません。(※あくまでもまずは相手の認知を知ることが大切。こちらから無理やり痛みメガネを奪わないこと!!もしかしたらその方にとってはお気に入りのメガネかもしれませんので。。

そしてなかなか治らなくなってしまう思考・認知は「脳内の活動パターン」に影響を与えます、あるいは「脳内の活動パターン」が思考や認知に影響を与えます。つまりそれは「治りやすい脳」と「治りにくい脳」があるということです。

脳内活動パターン

第3回ではこの慢性化した「脳内の活動パターン」を神経生理学を用いて説明します。

患者痛みメガネ

「生物医学モデル」から「心理社会モデル」へ

損傷モデル
「生物医学モデル」
Biomedical model

心理社会的モデル
「心理社会的モデル」
Biologicalpsychology Social model

我々が学生の時に学んだ痛みの治療戦略はいわゆる『生物医学モデル(損傷モデル)』と言われるもので、何かしらの【構造的な疾患】が痛みの原因であると考え、背骨の歪みやズレを治療の対象としていました。また整形外科では画像でわかる目に見える異常、例えば「椎間板ヘルニア」「脊柱管狭窄症」「すべり症」「変形性膝関節症」などを痛みの原因と考え治療してきたわけです。

このような治療モデルの場合、痛みを訴える患者の身体には何かしらの痛覚刺激が入力されて痛みを感じていると考えられますが、多くの研究から、ヘルニアなどの構造的な異常があったとしても痛みを訴えない人も多いですし、手術をして構造的な疾患を治療してもなお痛みを訴える方々もいらっしゃいます。

そうした中で、近年、痛みの治療モデルが「生物医学モデル」から「心理社会的モデル」へと変わってきました。

「心理社会的モデル」Biologicalpsychology Social model

BPS

痛みの回復を遅らせる心理・社会的な背景とは

イエローフラッグ

◆不適切なマインドセット

マインドセット

痛みに対する誤った信念、例えば、「痛みは有害である」「身体を動かすと痛みが強くなる「だんだん酷くなってきている」「手術をしなくては良くならない」など

◆不適切な痛み行動

安静

「長期間の安静」「痛みのため運動を控えている」「過剰な痛みを訴える」「薬に依存している」「ベルトやサポーターに頼りすぎている」「痛い痛いと周囲に訴える」など

◆不適切な診断と治療問題

レントゲン

「不安を抱かせる診断名」「治療に不満がある」「安静の指示」「受け身的な治療」「身体を機械的にみる」「様々な診断を受けて混乱」など

◆感情の問題

感情

「痛みに対する恐怖心」「気分の落ち込み」「イライラ」「運動する気にならない」「自己効力感の低下」「様々なストレスにより感情のコントロールが出来ない」など

◆仕事の問題

画像の説明

「肉体労働」「ストレスの多い仕事」「仕事をすることは有害」「体に負担がかかる仕事内容」「仕事のやりがい」「痛みに対する職場の理解」など

◆家族の問題

家族

「家族の誤った痛みに対する知識」「家族の過剰な気遣い」「配偶者との関係性」「家族が非協力」など

◆補償の問題

交通事故

「痛みがあると賠償がを受けられる」「加害者、保険会社の理不尽な対応」「審査の難航」
「疾病利得」など

イエローフラッグ

みの治療で求められること

ポイント

このように痛みをみるときに、痛いという「感覚的な痛み」だけでなく、不安や不快などの「情動的な痛み」や患者さんご自身が痛みをどのように「認知」しているのかの評価も必要になります。

そしてこれは脳内においては、体性感覚野や扁桃体、海馬、帯状皮質、前頭前野などの活動によるものでもあります。

次回第2回目では、「感覚」「情動」「認知」という側面を指標にして、患者が訴える痛みの原因を『4つの分類」に評価できるように痛みの多面性をより理解していきます。

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