痛みの神経生理学(Ⅰ) 目次

【静止状態・興奮】 『痛い!!』と感じた時に身体の中で何が起きているのかを『見える化』することが今回のテーマ

痛みの伝わり方

痛みを認知するまでの流れ

・「静止状態」→「興奮」→「伝導」→「伝達」→「調整」→「認知」

神経生理学から痛みを理解する為の基礎知識

・痛みとは「電気信号」である
・ニューロンの基本単位
・感覚ニューロンの受容器
・高閾値侵害受容器とポリモーダル
・細胞膜の構造
・膜たんぱく質(イオンチャネル・ポンプ・アクアポリン)
・細胞内液・細胞外液
・イオンと原子の違い
・イオンの細胞内外への輸送(拡散・能動輸送)

膜電位について

・静止膜電位
・静止膜電位の形成

膜電位の時間的変化とイオンの移動

・静止状態
・脱分極
・閾値
・膜電位0
・活動電位ピーク
・再分極
・過分極

痛みが感じやすくなっている状態

・炎症
・末梢性感作
・抗炎症薬の作用機序

みを認知するまでの流れ

認知までの流れ

痛みの神経生理学(Ⅰ)のテーマは、実際に「いたっ!!!」と感じた時に身体の中では一体どのようなことが起きているのかを「神経生理学」という1つのミカタで痛みを説明していくことです。痛いという現象を神経生理学を使って『見える化』できるようになることが目標です。

痛みを認知するまでの流れ」を神経生理学的に説明するために6つに分けてみました。

【静止状態】とはまったく刺激が加わっていない状態です。もしずっと興奮し続けていたらどうなるでしょうか?痛覚神経なら常に痛みの電気信号を出し続けますし、運動神経が興奮し続ければ、痙攣が起きたり、筋肉が緊張し続けていることでしょう。このようにずっと興奮していたら大変なので本来、神経が興奮したら必ず静止状態に戻って常にその状態を維持しようとする仕組みが備わっているのです。

リラックス

そして何らかの侵害刺激が加わると神経細胞は【興奮】し、その興奮は神経線維を【伝導・伝達】し、途中で痛みの【調整】(弱くなったり・強くなったり)が行われ、最終的には脳内で痛みが【認知】されます。

興奮

この流れで説明していきます。第1回目は①静止状態 ②興奮について説明致します。

侵害受容性疼痛

経生理学から痛みを理解する為の基礎知識

電気信号

痛みとは電気信号である

そもそも「痛い」とは神経生理学ではどういうことでしょうか?簡単に言うと、『痛み=身体の中で電気が流れること』とイメージしておいてください。痛みとは電気信号であるという事です。

(神経細胞が興奮し、電気信号が神経線維を伝導・伝達し脳内に入力されてから(赤色)下行性抑制の刺激(青色)が脊髄後角に出力されている動画 58秒)

では「どこで」電気が発生するのでしょうか?神経線維の途中など病理的なものもありますが、多くの場合は痛覚神経(Aδ・C)の自由神経終末と言われる末端部分で電気が発生します。拡大してみると、Aδ神経線維の末端は「特異的侵害受容器」(高閾値侵害受容器)、C神経線維の末端は「ポリモーダル受容器」と呼ばれる侵害刺激を電気に変える「受容器」という場所が電気を発生させる現場となります。そして神経細胞を包んでいるのが「細胞膜」であり、細胞膜に埋まっている、侵害刺激を受け取るセンサーである「侵害受容体」があります。このように【受容器】は電気を発生させる『発電所』、【受容体】は様々な侵害刺激を感じ取る『センサー』だと思ってください。よって、受容器と受容体とではまったく異なります。今回はこの受容器、細胞膜、受容体をメインにそれぞれ説明していきます。

メイン

仕組み

ニューロンの基本単位

ニューロン

様々な種類のニューロンがありますが、ニューロンの基本的単位は「細胞体」「神経線維=軸索」「樹状突起」で構成されています。

感覚ニューロンの受容器

受容器

痛覚だけでなく、触覚、圧覚、振動覚、温度覚、聴覚、味覚、視覚など様々な刺激を伝達する感覚ニューロン(神経細胞)の末端には「受容器」と呼ばれる器官が存在します。痛みの受容器は「高閾値侵害受容器」と「ポリモーダル受容器」の2種類があります。高閾値侵害受容器は組織を損傷させるような侵害刺激の際に活性化し、侵害刺激によって危険を知らせます。(速い痛み・一次痛)、ポリモーダル受容器は機械的・熱刺激・発痛物質など様々な侵害刺激に反応します。(遅い痛み・二次痛)

Aδ

ポリモーダル

日本臓器製薬「痛みのしくみとその歪み」

痛覚神経の末端部である侵害受容器にて『電気』が発生しますが、そのメカニズムを説明する際に、侵害受容器を【細胞内液】と【細胞外液】とに隔てている『細胞膜』の構造の理解が重要になります。

pain
ナショナルジオグラフィック』

受容体
『受容器(Nociceptor)には細胞膜を挟んで様々な刺激に対応するために特異的な受容体(Receptors)が存在する』

細胞膜の構造

細胞膜

「トートラ人体解剖生理学」

神経細胞(受容器も含めて)は細胞膜に覆われています。細胞膜の役割は「細胞内外で物質のやり取りを行なって細胞内部の環境を維持すること」です。

特に痛みの説明の際での物質のやり取りは『水』や水に溶けているプラス・マイナスの電荷をもった『イオン』になります。このイオンの出入りによって電気信号(活動電位)が発生したり、抑制されたりします。

では、細胞膜の構造ですが、イラストでは厚みがありそうですが実際は5nm(ナノメートル)=0,000005㎜で実際は電子顕微鏡でしか見ることができません。

細胞膜

拡大してみると、丸い部分と足が2本、それが向かい合っています。丸い部分を「リン酸」、足の部分を「脂肪酸」と呼びます。そしてそれらを合わせて「リン脂質」といい、向かい合って2重になっているので『リン脂質二重層』と言います。

丸のリン酸は親水性で水になじみますが、リン酸に挟まれた足の脂肪酸は疎水性なので、水や水に溶けたイオンは細胞膜を通ることが出来ません

しかし、先ほどもお伝えしたように細胞膜の役割は細胞内外での水やイオンのやり取りを行うことで、細胞内部の環境を維持することですので、水やイオンをなにがなんでも通さないといけないわけです。そのために細胞膜には水やイオンを通す仕組みがあるのです。

膜たんぱく質

膜たんぱく質

「トートラ人体解剖生理学」

その仕組みが細胞膜に埋まっている「膜たんぱく質」です。

濃度勾配(高濃度から低濃度)によって出入りする「イオンチャネル」であったり、細胞内のエネルギーを使って濃度勾配に逆らってイオンの出し入れをしている「ポンプ」であったり、「アクアポリン」という水の出し入れをする通り穴があるわけです。それぞれの通り方についてはこのあとご説明します。

細胞内液と細胞外液 のイオン濃度の違いについて

細胞内液外液

細胞膜は「細胞内液」と「細胞外液」とを隔てています。人体の組織の60%が水分でそのうちの40%が細胞内液、20%が細胞外液(15%組織間液 5%血漿<赤血球・白血球・血小板以外の血液>)となります。

「細胞内液」と「細胞外液」は同じ濃度の溶液ではなく、水の中に溶けているイオン濃度バランスが大きく異なります

実際に【静止状態時】を表で確認してみると、

イオン濃度

【細胞外液】にはNa+、Cl-、Ca2+が多く、【細胞内液】にはK+が多く高濃度となっています。

この濃度差を常に一定にしようとする仕組みが働いています。

注意してほしいのは、細胞内液も外液も陽イオン・陰イオンが溶質として溶けているわけですが、溶液全体の陽イオン・陰イオンのバランスは同じでプラスマイナスゼロの中性の状態なのです。

中性

これは静止状態のみならず、細胞が興奮しているときでも常に細胞内外の溶液は中性の状態を保とうとします。のちほど興奮の所でも説明しますが、興奮の過程でNa+が細胞内に「どばっーー」と入ってくるイメージがあって、細胞内全体の溶液がプラスになるみたいな捉え方をされますが、実際は細胞内外のバランスは一定の濃度に保たれていて、プラスだのマイナスだの言っているのは、実は細胞内外溶液全体の話ではなく、細胞膜のごくごく近辺の話のこと(膜電位)なのです。

膜電位の説明

なので「静止膜電位」「膜電位の上昇」とかいうわけです。これについては静止膜電位の所でまた説明します。

ここでの大事なポイントは細胞内外ではイオン濃度が異なり、その状態を常に維持させようとする仕組みがあるということです。(細胞内はK+が多い 細胞外はNa+・Cl-・Ca2+が多い)

イオンとは?

イオン

痛みの神経生理学ではNa+(ナトリウムイオン)やK+(カリウムイオン)などイオンの話が出てきますが、そもそも『イオン』とは何でしょうか?

イオンと原子

例えば、Na(ナトリウム)とNa+(ナトリウムイオン)とはまったく異なります。Naは原子でNa+はイオンになります。

原子とは『物質を細かくしてそれ以上は分解できない粒』の事を言います。そして原子の構造は、中心に【原子核】があり、その中に【陽子(+)】と【中性子】があり、原子核の周りには【電子(-)】があります。

そして、原子核の『陽子の数』で物質の性質が変わります。例えば、Naナトリウムは陽子は11個、Kカリウムは19個、Caカルシウムは20個、Cl塩素は17個です。

また陽子と電子の数は同数になります。

陽子(+)と電子(-)はともに打ち消し合って中性を保ちますので、原子は電気は帯びていません。よって電気を流しても電気は流れません。例えばNaCl(塩化ナトリウム・食塩)に電気を流しても電気は流れません。

原子

イオンとは『+または-の電気を持つ原子です

水に溶けるなど何かしらの刺激が加わると、電子が飛び出たり、入り込むことによって、陽子と電子のバランスが崩れることで+、-の電気を帯びることになります

例えばナトリウムNaは電子(-)を1つ出すことにより、陽子(11個)、電子(10個)となり、+が1つ多くなるのでNa+となりナトリウムイオンとなります。

逆に塩素Clは電子を1つ取り込むので陽子(17個)、電子(18個)となり-が1つ増えるのでCl-となり塩化物イオンとなります。

イオンの説明

「中3理科を一つ一つわかりやすく」

原子からイオンになって電気を帯びることを【電離・イオン化】と言います。原子にはイオン化しやすい原子とイオン化しにくい原子があります。NaCl(食塩)は水に溶けると電離し、電気を帯びたNa+とCl-に分かれるので、電気を流すと電気が流れます。しかし、砂糖(グルコース)はイオン化しにくいので水に溶けてもイオン化しないので電気は流れません。

イオン化

体液内はNa+、K+、Ca2+、Cl-などのイオンが溶けているおかげで電気が流れるのです。

ニューロン

痛みとは『身体の中で電気が流れること』です。イオンのおかげで身体の中で電気を流して痛みを伝えることができるのです。なので、体液中のイオン濃度の維持がとても大切になります。

イオンの移動

イオンの輸送

細胞膜の働きは「膜たんぱく質を使って水やイオンの輸送」ですが、この輸送にはいくつかの物質輸送の仕方があります。

細胞膜

「トートラ解剖生理学」

【拡散】

まずは「拡散」(受動輸送とも言います)
これは分かりやすく、細胞内液・外液の濃度差でイオンが移動します。つまり高濃度から低濃度へとイオンは移動します。またイオンチャネルは選択的透過性といって、ある特定のイオンしか通れません。このイラストを見ると細胞外液から内液へとイオンが移動しているので、先ほどの細胞内液・外液濃度表を見ても分かるように細胞外液の方が濃度が高い、Na+、Ca2+、Cl-のどれかの可能性があります。

イオンチャネルは例外的に常に開いているものもありますが(リークチャネル)、基本的には常に閉じていて、侵害刺激を受けた際に開き、開くことで濃度差による拡散でイオンを輸送しているわけです。

濃度差がなければ拡散ができずイオンの輸送ができなくなるので、先ほどの安静時の細胞内外のイオン濃度のバランスを維持させておくことはとても大切なことなのです。

【能動輸送】

本来、拡散により輸送されたイオンは濃度差が均等になるまで移動を続けますが、しかし先ほどの表で見たように一定の濃度差を維持しなくてはいけませんので、入ってきたイオンを濃度差に逆らって輸送する仕組みがあります。それが能動輸送です。

能動輸送

その仕組みが「ナトリウム・カリウムポンプ」による輸送で、これは濃度勾配に逆らって輸送するので、細胞内の『ATP』というエネルギーを使ってイオンの出し入れをしています。具体的には細胞内に入ってきたNa+を外にくみ出して、その代わりに、細胞の外からK+を汲み入れています。このようにして細胞外はNa+が多くて、細胞内はK+が多い安静状態を常に維持しているわけです。



臨床的にみると、このナトリウム・カリウムポンプはATPというエネルギーを使っているのですが、ATPは細胞内の『ミトコンドリア』という場所で【酸素】を使ってATPを作り出しています。しかし何らかの原因で酸素不足が生じると、ATP不足になるわけです。そうなると、ナトリウム・カリウムポンプの機能が低下して、Na+を細胞外へくみ出すことが出来なくなり、細胞内にNa+が多くなります。Na+が多くなると細胞膜の膜電位がプラスに傾き、興奮しやすい状態となります。

ATP

初期の段階であれば、痛覚過敏や瞼の痙攣や瞳孔の縮瞳が早くなったり、エネルギー不足により数回の光刺激で縮瞳がしづらくなります。これが末期であれば、エネルギー枯渇状態(TND=Transneural Degeneration)になり、光刺激による縮瞳もなくなり、この状態でさらに刺激を加えることは、さらなるNa+を入れることになり、より症状を悪化する可能性があります。なのでこういった状態はごく軽い刺激さえも症状を悪化させる可能性があるので注意する必要があります。この場合の治療は刺激ではなく、【深呼吸】による酸素供給が有効です。

深呼吸

電位について

膜電位

【細胞内外に存在する電位差】のことを「膜電位」と言いますが、どのようなメカニズムで膜電位が生じるのでしょうか?

そもそも細胞内液、細胞外液を隔てているのが細胞膜ですが、細胞膜の構造は親水性のリン酸と疎水性の脂肪酸で構成されているので、本来、水やイオンは細胞膜を通ることができません。

細胞内液・細胞外液ではそれぞれ溶液に溶けているイオン濃度が異なります。K+は細胞外に比べて細胞内は30倍多く、Na+は細胞内に比べて細胞外は10倍多い。これは【Na-Kポンプ】によって細胞内液・外液のイオン濃度を維持しているからです。

そして細胞膜上には常に開いているK+リークチャネル】が存在することで、K+は拡散(高濃度から低濃度に移動)により細胞内から細胞外に流出しています。K+が細胞外に出ることによって、中性であった細胞内液のプラスマイナスがアンバランスになってしまうので、細胞内の陰イオンは細胞膜の近位に移動し、陽イオンを引きつけます。つまり、K+リークチャネルによって膜電位が生じるのです。

膜電位
「あらゆる細胞には膜電位が生じている」

静止膜電位について

静止膜電位

教科書ではよく静止膜電位は-70mvであると説明されますが、どのような仕組みで-70mvに維持されているのでしょうか?

なぜ

K+リークチャネルは常に開いているので、拡散作用により、K+は常に細胞内から細胞外へ移動していきます。

カリウムイオンリーク

そして、陽イオンであるK⁺が外に出ると今度は細胞内外のイオンバランスが崩れて細胞内の陰イオンが増えるので、今度は陰イオンが細胞膜近辺によってきてK+を電気的に引き戻そうとします。

K+が拡散で出ていこうとする力』とマイナスイオンによって『K+が引き戻される力』がちょうど釣り合って、K⁺リークチャネルが開いていても、実質K+の移動が止まっている状態が【静止膜電位】が形成されている状態で、細胞外を0mvとして、細胞内の膜近辺(膜電位)を測ってみると-70mvであるということです。

膜電位の形成

「生理学の基本がわかる辞典」

膜電位の時間的変化とイオンの移動

痛覚神経細胞においての「膜電位」は-90mv~30mvの幅があります。その幅を
作り出しているのが細胞内外を移動しているプラスマイナスの電荷を持っているイオンなのです。

膜電位の時間的変化

静止状態

膜電位図
何も刺激が加わっていない状態ですので、-70mvで安定しています。

イオンの動き
静止膜電位の形成は【K+リークチャネルによるK+の細胞外に出ていこうとする力(拡散力)】と【細胞内の陰イオンによる陽イオンを引き戻す力】が平衡状態になった時の細胞膜内側近辺の電位のことでした。つまり、-70mv相当の陰イオンが細胞膜内にへばりついている状態と言えます。細胞膜を挟んだ内側・外側がプラス極とマイナス極に分かれているということで「分極」状態と言います。

脱分極

<膜電位図>

  • 70mv静止状態から-60mvへ膜電位が上昇する脱分極が生じ、【起動電位】が発生します。陽イオンが入ってくることで細胞膜内の電位が0mvへと向かいます。0とはプラス・マイナス0の分極がない状態ですから、0mvに向かうとはつまり分極を脱すること『脱分極』となります。

<イオンの動き>
侵害刺激を受けることでイオンチャネルが開き、陽イオン(Na+・Ca2+)が流入する。もともと細胞内の陰イオンは陽イオン(K+)が出ていかないように引きとめるために細胞膜にへばりついていましたが、陽イオンが細胞内に入ってきたので、引き止める力は、先ほどよりは少なくなり、陽イオンが細胞内に入ってきた分、陰イオンは細胞膜から離れます(細胞膜にへばりついていた陰イオンが少なくなります)(細胞膜内側の陰イオンが少なるなればなるほど膜電位は上昇します
その状態で電位を測ってみると陰イオンが少なくなった分、0mvに近づく方向に膜電位が上昇するので-60mvになっています(仮定)

脱分極し、【起動電位】が発生しても、この状態で刺激が無くなれば「K+リークチャネル」と「NaーKポンプ」の働きにより静止状態に戻ろうとします。

侵害刺激と侵害受容体について

侵害受容体
日本臓器製薬「痛みのしくみとその歪み」引用

痛みを生じさせる侵害刺激は熱刺激には切る、叩く、つねる、押す、ひっぱるなどの機械的侵害刺激のほか、43度以上の熱刺激、15度以下の冷刺激や発痛物質や化学刺激などがあります。そして、その刺激を受ける侵害受容体(痛みセンサー)がそれぞれにあります。

機械的刺激受容体 =機械的な刺激によりイオンチャネルが開きます(動作による運動器疼痛含)

T RP熱関連受容体=熱刺激によりイオンチャネルが開きます。また辛いと痛みを感じますが辛味成分のカプサイシンが T RP受容体に結合するとイオンチャネルが開きます(リン酸化により感受性が高まり体温でも閾値に達し興奮する=自発痛)

AS I C酸感受性イオンチャネル=酸、水素イオン(H+)乳酸の結合によってイオンチャネルが開く(筋肉内の酸欠により、発痛物質である水素イオンやブラジキニンが産生される)

P2X.P2Y 受容体=A TP(組織の損傷に伴い産生)の結合によってイオンチャネルが開くorリン酸化によって膜電位を上昇させる。

B2. B1受容体=ブラジキニンの結合によってリン酸化を起こし膜電位を上昇させる。

EP.IP受容体=プロスタグランジンの結合によってリン酸化を起こし膜電位を上昇させる。

※リン酸化については後ほど説明します。
このように侵害刺激と侵害受容体は各々セットになっております。

閾値

<膜電位図>
-50mv(仮定)まで膜電位が上昇する。

<イオンの動き>
侵害刺激が続き、膜電位が【閾膜電位(閾値)】である-50mvまで上昇すると細胞膜の電位を感知する【電位依存性Na+チャネル】が開口し、陽イオンであるNa+が大量に細胞内に流入する

②の時よりもさらに細胞内に陽イオンが入ってきたので、細胞膜にへばりついていた陰イオンがさらに少なくなります。つまり、膜電位がさらに0mvに近づきます。

静止状態が維持できないほど刺激が加わり、陽イオンの流入が続き、膜電位の上昇が高まり一定の「閾値」に達すると『活動電位』が発生し、痛みの電気信号が伝導することになります。

局所麻酔薬(ブロック注射)

局所麻酔薬の作用機序は電位依存性Na+チャネルをブロックさせることです。電位依存性Na+チャネルをブロックすれば活動電位は発生しませんから痛みは伝わらないということです。

注射

硬膜外ブロック・神経根ブロック・トリガーポイントブロック注射、どれも局所麻酔薬ですから適時適切に最適な場所に使えば効果があることも多いでしょう。

局所麻酔

「痛みの考え方 丸山一男著」

膜電位0

<膜電位図>
Na⁺が流入してきて、-50mvから0mvまで一気に上昇する。(途中で減衰することはありません。デジタル信号)

<イオンの動き>
細胞外に出ていく陽イオンと細胞内に入ってくる陽イオンが同じになったので、陰イオンで引き止める必要がなくなるため電位差はなくなる(仮定、一瞬の出来事)

活動電位ピーク

<膜電位図>
0mvから活動電位ピークの30mvまで膜電位が一気に上昇する(減衰することはありません)
<イオンの動き>
Na+の流入が続き、細胞外に出ていくk+より細胞内に入ってくる陽イオンの方が増えるので、電位差が逆転し、今度は細胞内に流入した陽イオンを細胞外の陰イオンが引き止める動きになり、細胞膜内がプラス、細胞膜外がマイナスになります。

活動電位がピーク(30mv)に達すると、再び静止状態に戻ろうとするため、電位依存性Na+チャネルは閉口します。

再分極

<膜電位図>
活動電位のピーク(30mv)から一気に静止膜電位(-70mv)まで膜電位が下がる。

<イオンの動き>
流入してきたNa+をNa-kポンプで細胞外に出すとともに、【電位依存性K+チャネル】が開口し、K+が大量に細胞外に流出します。陽イオンが細胞外に出ることで、再び細胞内の陰イオンが細胞膜の近辺まで移動してきて、陽イオンを引き戻そうとするので、陰イオンが細胞膜近辺に増えるごとに膜電位は30mv→0mv→-70mvまで一気に下がっていきます。プラス極、マイナス極が再び分かれるという意味で、これを「再分極」と言います。

過分極

<膜電位図>
静止膜電位(-70mv)からさらに-90mv(仮定)まで膜電位が下がってから徐々に静止状態に戻る。この時期は【過分極】【不応期】といい、たとえ刺激が加わったとしても反応できません

<イオンの動き>
電位依存性K+チャネルが開口し続けているので、K+が細胞外に出続けるために、さらに陰イオンが細胞膜近辺に移動してきて、-90mvまで電位が下がります。
その後、電位依存性K+チャネルが閉じて、「K+リークチャネル」と「Na-Kポンプの働き」により、静止状態に戻ります。

ここまで(①~⑦)が静止状態から脱分極、起動電位、閾値、電位差0、活動電位ピーク、再分極、過分極、静止状態の「膜電位とイオンの動き」の説明になります。第2回目で説明する『伝導』とは①~⑦の繰り返しで神経線維(軸索)を活動電位が伝わっていく事になります。

伝導

みを感じやすくなっている状態(末梢性感作の場合)

激痛

炎症

怪我をした時やぎっくり腰、寝違え、運動後の筋肉痛、日焼けをした時など『炎症』が起きているときは普段より痛みを感じやすくなります。これを【感作】といいます。

炎症が起きているときは損傷した細胞や血液内から【内因性発痛物質】(ブラジキニン・プロスタグランジン・ATP・ヒスタミン・セロトニン・水素イオン)が産出され、痛みを感じやすくします。

感作

これら発痛物質がどこから産出されるかといいますと

発痛物質

「よくわかる痛み・鎮痛の基本としくみ」

損傷した細胞→ATP、K⁺、水素イオン、プロスタグランジン
血漿→ブラジキニン
肥満細胞→ヒスタミン
血小板→セロトニン

これらの発痛物質が各自の専用の受容体に結合すると陽イオンが細胞内に流入し、脱分極を起こし、起動電位が発生します。(まだ閾値に達していなければ活動電位は生じません)

発痛物質が多ければ多いほど、膜電位が上昇し、閾値に達しやすい状態になることから、少しの刺激でも活動電位が発生しやすい状態と言えます=痛みを感じやすくなっている状態です。

発痛物質が結合する受容体には主に2種類のタイプがあります。一つは発痛物質が結合すると直接イオンチャネルが開口する【イオンチャネル型受容体】(水素イオン、セロトニン、ATPなど)そしてもう一つは発痛物質(プロスタグランジン、ブラジキニン、ATP)が【Gたんぱく質共役型受容体】に結合することがきっかけで生化学反応が起き、『Na+・Ca2+が細胞内に流入しやすい状態』『K+が細胞外に出にくい状態』『イオンチャネルの感受性が高まる(陽イオンが流入しやすくなる)状態』にします。これを【リン酸化】といいます。

リン酸化

「日本臓器製薬痛みのしくみとその歪み」

ATP受容体は2種類あり、P2Yは『Gたんぱく共役受容体』で、P2Xは『イオンチャネル型受容体』です。

プロスタグランジン自体は発痛物質ではなく、受容体に結合することで「リン酸化」を起こし、痛みを感じやすくします。

リン酸化について

怪我をして、動いていないのに「ジンジンとする」、ちょっと触っただけで「ズ~ンと痛い」、ぬるいお風呂なのに「ヒリヒリ痛い」(日焼け)、ちょっと動いただけで痛い(筋肉痛)こういう急性の痛みは日常生活ではよくある痛みです。この普通より痛みを感じる機序が『発痛物質による膜電位上昇』と『リン酸化』によるものということです。

リン酸化について

「日本臓器製薬痛みのしくみとその歪み」

【リン酸化】とは生化学反応の過程でP(リン)を膜たんぱく質にくっつけることで、イオンチャネル等のたんぱく質の立体構造が変わることです。

具体的には、
Na+チャネルを開きやすくする
K+チャネルを閉じやすくする
イオンチャネルの感受性を高かめる

①②③すべて、陽イオンを細胞内にため込むので、膜電位が上昇し活動電位が発生しやすい状態となります。

リン酸化説明

そしてリン酸化のきっかけを作るのが『キナーゼ』(イラストではPKCやPKA)と呼ばれる酵素によるものです。

ブラジキニンやプロスタグランジン、ATPが受容体に結合すると生化学反応が起き、そのプロセスで『キナーゼ』が産出されて、リン酸化が起きます。

キナーゼ

臨床的には、本来TRPV1(トリップV1)受容体は本来43度以上の熱刺激で開口し、陽イオンが流入し、痛みを感じるわけですが、炎症が起きている場合、ブラジキニン結合によるリン酸化により、TRPV1受容体の感受性が高まり、36度でも開口するようになります。また、ATP結合によるリン酸化により35度、そしてプロスタグランジン結合によるリン酸化により、32度の熱でも陽イオンが流入してきます。32度は体温より低いので、これは動いていないのに痛い「自発痛」となります。ぬるいお湯でさえ痛みを感じます。

つまり、炎症による痛みは『発痛物質によるNa+、Ca2+の流入』とプロスタグランジン等による『リン酸化』により、膜たんぱく質の立体構造が変化し、膜電位が上昇しやすくなることにより、普段よりも少ない侵害刺激でも痛みを感じやすくなっている状態(閾値に達しやすくなっている状態)と言えます。これを【末梢性感作】と言います。

末梢性感作

であるならば、ブラジキニン、プロスタグランジンの産出を抑制してあげれば除痛に繋がるわけです。

炎症性の痛みを止めるには

ロキソニン

抗炎症剤

ロキソニン作用機序

ロキソニンをはじめとする【非ステロイド性抗炎症剤】の作用機序は痛みのもとである『プロスタグランジン』を産出させないように COX(シクロオキシゲナーゼ)という酵素の働きを抑制させることです。

損傷された細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が作られ、アラキドン酸はシクロオキシナーゼ(COX)の働きによりプロスタグランジンが産出されます。

よって、シクロオキシナーゼ(COX)を抑制すれば痛みの軽減が期待できます

これが抗炎症剤の作用機序です。

そして COXには COX1と COX2があり、 COX2は炎症時に産出されますが、 COX1は常に体内にあり、胃腸の粘膜を保護するのに大事な役割のあるプロスタグランジンを作っています。多くの抗炎症剤は COX1.2両方の働きを抑制させてしまうので胃薬(ムコスタ)を服用しなくてはなりません。ただしセレコックスは選択的に COX2のみを抑制させます。

本当にロキソニンが必要?

ロキソニンを1日朝昼晩3回を3年間飲み続けておられた方がいました。正直びっくりしたと同時に痛みの改善がないのに同じ薬を3年間も処方していた病院にも怒りを覚えました。

ロキソニンは抗炎症剤です。急性の痛みで炎症があれば効く可能性があります。炎症があるか、ないかの違いは炎症があれば座っていても寝ていても動いていなくてもジンジンしたり痛みを感じます。また本来痛みを感じないような弱い刺激でも強い痛みを感じます。

痛みのタイプは「炎症性?」それとも「動作痛?」

初期の炎症性の痛みは動かなくても痛みを感じますが、炎症は数日で治まる場合が多く、数か月も続くことは稀です。来院される多くの方々は炎症が治まる途中かすでに治まっている方々です。そういう方は動かなければ痛みはありません。寝返りや座ってから立ち上がる時、前屈する時などの動作をした時に痛む「動作痛」なのです。

動作痛

炎症による痛みではないので、炎症を抑える働きがあるロキソニンを飲んでも効果を感じにくいのも当然のことでしょう。痛みのタイプが違うのです。

動作痛による痛みの原因の多くは「筋肉のこわばり」ですので、炎症を抑える薬ではなく、筋肉を柔らかくする必要があるのです。

次回

次回痛み学講座(Ⅱ)は「伝導・伝達」についてです。活動電位の伝導の仕方、シナプス間での伝達の仕方、病理的な神経障害性疼痛、中枢性感作、脊髄における痛みの記憶化についてお話致します。

お疲れさまでした!!うみかぜカイロプラクティック 玉田

痛み学講座(Ⅰ)参考図書 ★が多いほど読みやすい

・脳の中の痛み 痛み学Note 守屋徹先生★★★
・図解入門 よくわかる痛み・鎮痛の基本としくみ★★★
・痛みの考えかた しくみ・何を・どう効かす★★
・痛みと鎮痛の基礎知識(上・下または改訂版)★
・ペインリハビリテーション★

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